Trouble in Christmas
 By.西崎青惟さま(METALLIC SHINED)
 12月24日。クリスマス・イブ。  街の中はネオンは光り、飾り付けられたツリーは光りを弾いて輝いて。
 これで雪でも降ったらシチュエーション的に完璧?とエドワードは心の中で苦笑した。







































 その電報を受け取ったのは2週間前。
『クリスマス・イブに東方司令部に出頭すること。パーティーを行う。弟と共に参加は強制。来ない場合は上官命令違反として軍法会議』

 出来るだけ急いで届けようとしたのか、それとも上からの圧力があったのか。
 滞在している町の憲兵が切らせた息を整えながらエドワードの返事を待っている前で、エドワードは思わず叫んでいた。

「なんだ、そりゃあっ!!?」

 どんな命令だろうと文句を口にしようと、上官の命令は絶対だと思い知ったエドワードである。







































「というわけで来てやったぜ」
「この度はお誘いありがとうございます」

 パーティー会場は士官室。
 いつもは机の上に書類やら灰皿やらトランプやらが散らばっている机はすっかりと片付けられ、グラスや皿やオードブルが並び始めていた。

「やあ、やっと来たね」

 そう言ったのは士官室のソファーで手伝いもせずくつろいでいるロイ。
 エドワードは殴ってやろうとか思ったのだが、慰謝料を請求されそうだと思って諦めた。

 アルフォンスが持っていた木箱を床に置くと、ハボックが興味を示して寄って来る。

「おい、アル。この箱の中身は何だ?」
「あ、これはワインですよ」
「ワイン!?」

 アルフォンスの答えに男4人は木箱の周りに集まる。
 それを見てエドワードはにっと笑った。

「俺たちが滞在してる町の特産が葡萄でさ、丁度いい感じのワインが出来てるって話だったんだ。一応クリスマスだし、俺たちからの差し入れってことで」
「気が利くじゃねぇか、エド!」

 ブレダはエドワードの頭を撫でた。
 それに目を細めたロイに気付いて、エドワードはブレダの手を除けてソファーで足を組んでいる男に歩み寄った。

「しかしクリスマスパーティーぐらいで呼び出すんじゃねぇよ、この無能。権力の使い方間違えんな」
「私にとっては君がクリスマスにそばにいてくれることは最重要事項だがね」
「ふざけんな」

 不機嫌そうにそう言って顔を逸らしたエドワードにロイが手を伸ばしかけたその瞬間。

 ガンガンガン!

 3発の銃声と共に部屋の中に広がった硝煙の匂い。
 幸運にも(?)その弾丸はロイに向かって撃たれたものではなかったが、ロイの行動を抑制することは出来た。

 ちなみに銃で狙われたのは、パーティー準備をそっちのけでワインを箱から出して喜んでいた男たち。

「エドワード君たちも来てくれたことだし、さっさと用意をしたほうがいいでしょう」

 スマートな動作で銃をホルスターにしまった女性を「かっこいい」とだけ表現するのはかなり難しいとエドワードは思う。

 4人の男たちは顔色を真っ青にして音がなりそうなくらいコクコクと頷き、パーティー準備に戻ることになった。
 ワインの瓶が一つも割れなかったことは唯一の救いであろう。

「ていうか、軍がクリスマスパーティーなんかしてていいワケ?」

 エドワードの問いにロイは自分の隣のソファーを勧めながら答えた。

「クリスマスの浮かれきった雰囲気に事件を起こす奴らもいないよ。いても盗みや引ったくり、私たちが出るまでもない事件ばかりだ」
「そういうもんかねぇ」

 多少強引だと思われるロイの論理に、「中尉が許可してるんなら大丈夫か」とエドワードは結論を出して納得した。

 ここで納得してはいけなかったと後悔するのはしばらく後のことである。







































 ハボックが音頭を取って始まったパーティーはすぐに賑やかになった。
 唯一当番として酒を飲んではいけないと命じられたフュリーはアルフォンスと共にブラックハヤテ号をかまっている。

「うん、うまいな」
「だろ?」

 エドワードが差し入れたワインを飲んだロイの感想に、エドワードはニッと笑う。
 ルビーのように深く赤いそのワインは、舌で転がせばその風味が口の中に広がって一級品とわかるものだった。

「本当においしいわ、エドワード君。・・・ただの酔っ払いに飲ませるのが勿体無いほどね」

 ホークアイの言葉にエドワードは苦笑する。
 ハボック、ブレダ、ファルマンの面々は水のようにワインを干し、そして笑い声を上げている。

「たくさん買って来たしさ。今度またいいワイン見つけたら買ってくるよ、中尉」
「ありがとう、エドワード君。さぁ、たくさん食べてね」
「あ、頂きます」

 いつも通り冷静な様子でホークアイはエドワードに皿を持たせる。
 エドワードは自分用のオレンジジュースを机に置き、皿に盛られたオードブルに手を伸ばした。

 用意されたのは手を汚さずに済む食べ物ばかり。エドワードはその気使いに感謝する。

「鋼の、何なら食べさせてあげようか?」
「引っ込め、酔っ払い」

 酔っているせいかそれともパーティーの場に自制はいらないと思っているのか(思っていたらそれは多大な勘違いだが)肩に腕を絡めてくるロイを払って、エドワードはドリアを取り分けて自分の皿に盛った。
 アルフォンスが楽しめなければ早々に失礼しようかと思っていたが、アルフォンスはアルフォンスでフュリーと共にブラックハヤテ号と楽しんでいる。心配することはなさそうだ。

 さて、じゃあ自分も破目をはずそうとエドワードは表情を崩した瞬間。

 ジリリリリン!ジリリリリリン!

 全員が動きを止めた。
 鳴っているのは、机中央の電話。その意味は。
 その不幸な電話を取ったのは当番であるフュリー。

「はい、士官室です」

 騒いでいたハボック、ブレダ、ファルマンは固まり、ロイは目つきを改めた。そしてホークアイは様子が変わらない。
 だがサァッと冷めていく部屋の空気に、エドワードとアルフォンスは体を震わせた。

「はい、はい・・・はい」

 フュリーは近くのメモにすらすらと文字を書いていく。
 近くにいたアルフォンスはそのメモの中に「テロ」という文字を見つけてしまい、ブラックハヤテ号を抱いてこのまま逃げてしまおうかと本気で考えてしまったほどだ。

「わかりました。すぐに向かいます」

 チン!と物悲しい音を立てておかれた受話器。
 全員の注目を浴びて、フュリーは泣きそうになった。だが、言わなくては始まらない。

「あの・・・・爆弾を持って立てこもったテロリストが大佐をご指名だそうです」

 ああ、なんて馬鹿なテロリスト・・・・・。

 エドワードがフォークをくわえながらそう思ったのは無理からぬことであろう。







































「別に君まで来る必要はなかっただろう」
「酔っている軍人に任せられるほど楽天家じゃねぇんだよ、俺は」

 司令部に連絡係として残されたのはフュリーとブレダとアルフォンス。
 いざと言う時に連絡が取れなくなればその方が問題なので、素面のフュリーを残したことはそれはそれでいい判断だとエドワードは思う。

 問題は、ここにいる自分以外の士官が酔っ払っていること。

「そんなに私と離れるのが悲しかったのかい?」
「ふざけんなー!抱きつくな!離れろー!」

 ガチン。

 銃の装填音。その音に、エドワードの顔色は青くなった。
 隣には銃をいつでも撃てるように構えているホークアイ。

「現場です、静かにして下さい」
「・・・・はい」
「仕方ないね」

 ロイの体温が離れて、エドワードは微かに体を震わせた。
 吐息が白い。雪こそ降っていないが、雲の様子と気温を見ればいつ降り始めてもおかしくなさそうだ。

 犯人が立てこもっているのは恋人たちが集まる喫茶店。犯人は腕にダイナマイトを抱いて一部が割れたガラス越しにこちらを睨んでいる。
 人質たちを確認するが、人数はカップルばかり計8組と店員が6人。窓が割れているせいで寒いのか、体を震わせている様子がわかる。

 これは急いだ方がいいなとエドワードがちらりとロイを見上げた時、ホークアイが口を開いた。

「大佐、私に任せてください。一発で仕留めます」
「いい案だな、中尉」

「え・・・・・・?」

 中尉らしからぬ発言にエドワードは固まり、そしてサァッと顔を青くした。

「ちょっと待った!犯人の説得とかは始めないわけ?人質の安全の確保とか・・・!」

 慌ててそう言ったエドワードに、ロイはにっこり笑う。

「信じたのか、鋼の。冗談だよ」

  (いや、今のは本気だっただろ!!)

 少なくとも、残念そうにしているホークアイは本気だ。
 というか、一番まともだと思っていたホークアイも酔っている事実にエドワードは慌てる。

「じゃあ私が一つ燃やしてみようか」
「犯人もろとも人質も殺す気か、アンタは!」

 酔っている上での冗談なのか、それともクリスマスを邪魔された本気の言葉なのか。
 ロイはにこにこ笑いながら発火布を構えている。

「何、ここら一帯が燃えたくらいなら区画整理が出来て万々歳だ」
「被害がでかすぎるわ!」

 ダメだ、この軍人たちは。使いものにならねぇ!

 エドワードは近くにいながらも上官たちのいつもと違う様子に近づけずにいた憲兵に声を掛けた。

「相手の要求とか身元とかはわかってる?」
「あ、はい!テロリストグループ『聖なる獅子』の生き残りのようです!要求はセントラルで拘置中のリーダーと幹部3人の釈放!単独犯で協力者及び背後関係はないとのことです!」
「はい、ご苦労さん」
「鋼の、あんな輩を真面目に相手するだけ無駄だぞ」
「アンタたちでよってたかって殺すよりマシだよ」

 ロイの言葉を一刀両断にしてエドワードは口を押さえる。
 その時、ハボックとファルマンが後ろから現れた。

「大佐、突入しないんすか?」
「作戦を立ててはいるが、鋼のが満足してくれなくてね」
「そうなのですか?」

 ファルマンの問い掛けに「当たり前だろ」と返していいものかエドワードは悩む。
 するとハボックがエドワードの肩を叩いた。

「なぁ大将、あんな奴自分の持っているダイナマイトが何らかの事情で引火して自爆となっても文句は言えねぇぞ?」
「だろう?」
「いや、その発想自体間違ってるから」

 ハボックの言葉に同意をするロイに、エドワードはちゃんと意味を理解して冷静に返す。
 つまりロイに火をつけさせろってことだ。この軍人たちは酔っているせいで被害のでかさを考えていない。
 そう思っていた瞬間。

 胸に響くような一つの銃声。全員が振り返ると、ホークアイの持つ銃から煙が出ていた。
 そして喫茶店内の犯人は、ダイナマイトを持ったまま床に倒れる。喫茶店から響く悲鳴。

「ちゅ、中尉ぃ!?」
「長引かせる必要はないわ、エドワード君。ちゃんと急所ははずしているから大丈夫よ?」

 天使の如き女性の微笑をそのまま受け取るのは危険すぎる。

「そういう問題!?」
「ハボック少尉、ファルマン准尉、犯人を確保しろ。あと人質の保護もな」
「「Yes,Sir」」

 二人が部下と共に喫茶店へと向かうのを見送って、エドワードは痛い頭を押さえた。
 今度からクリスマスに東方司令部に来るのはやめよう。心の中でそう決意して。







































 両手を合わせて犯人の持っていたダイナマイトを分解する。
 犯人によって壊された物は現場保存として残しておけばいい。ボランティアで物の修復をするほどエドワードは優しくない。

 人質となった被害者たちはホークアイとファルマンによって東方司令部へと移動になり、事情聴取を受けている。
 現場に残っているのはエドワードとロイ、そしてハボックだ。

「大将、サンキューな」
「おう」

 結構酔いが冷めたらしいハボックは部下に現場検証の指示を出しながらエドワードに声を掛けた。
 エドワードはそれに答え、頭を冷やすために外に出る。

 酔っている人間の相手で疲れた。自分らしくなくフォローに回っていたから余計にそんなことを思うのだろうか?

 空を見上げると満点の空を彩る星。リゼンブールと比べると星の数が少ないが、それでもクリスマスを彩るには最高のライトだ。

 喫茶店のドアベルがなり、「鋼の」と声を掛けられる。それで相手はわかったので振り返るようなことはしない。

「風邪を引くよ、鋼の」
「おー。今年はホワイトクリスマスにならなかったなー」

 エドワードの言葉にロイは笑った。そしてエドワードに歩み寄る。

「そうだな・・・まぁ、雪などなくても私にとってみれば君がいるだけで完璧なシチュエーションだが?」

 ロイの言葉にエドワードは顔を染める。
 恥ずかしい言葉に事欠かない大人だ。口のうまい男には気をつけろと言ったのは誰だったっけ?

「俺はクリスマスの飾りじゃねぇっての」
「当然だ。君が主役だよ」

 更に言われてエドワードは降参した。
 この大人に口で勝とうとしたのが馬鹿だったのだ。そうだ、そう思うことにしよう。

 その様子にロイは優しく微笑む。

「さて、納得して頂いたところで家に招待したいのだがよろしいかな?」
「へ?司令部でパーティーするんじゃねぇの?」
「顔は出した。途中で抜けたところで中尉も文句は言わんよ。それに後処理でパーティーの続きが出来るかも微妙だ」
「だったらアンタも戻って後処理しろよ」
「私に上がってくる仕事は明日だよ、鋼の。それに1年に1度のクリスマスだ、恋人と過ごしても文句はないと思うがね」

 ああ、この大人は。

 エドワードは顔を押さえる。きっと顔は真っ赤だろう。

 子供みたいに我侭を言うけど、その我侭は自分にも嬉しいものだから。
 過剰な愛情に戸惑ってばかりだけど、だけどやっぱりそれは嬉しいから。

「ケーキとシャンパンは買えよな。せっかくのクリスマスなんだし」

 顔を上げて胸を張って、最低条件を提示する。
 その言葉にロイは首を竦めた。

「君は未成年だろう?ノンアルコールのシャンパンでよろしいかな?」
「ノンアルコールのシャンパンなんてシャンパンじゃねぇよ」

 そう言ってエドワードは身を翻して雪の中を歩き出す。

「行こうぜ、大佐」

 神など信じていないし、神を祝う気もない。
 ただ、周りがこれだけ浮かれてるんだ。一人や二人、無神論者が便乗してもいいだろう?

「あ、そうだ」

 先を歩いていたエドワードが振り返る。

「Merry Christmas、Roy」

 その言葉にロイは幸せそうに笑った。

「Merry Christmas、Edward」
 西崎青惟さまからのクリスマスフリーSSです。
 可愛いでしょう?!。何が可愛いって、ダメな大人の集団と化した東方指令部の面々にツッコミを入れまくるエドが・・・!。頼みの綱の中尉が一番ヤバい人物になっているし・・・。
 上司の権限を使ってでもクリスマスには、エドと一緒にいたかったダメな大人代表の大佐と、権限を使われてぶーぶー良いながらも大佐にほだされてあげるエドが微笑ましいです。
 西崎さま、有難うございました。

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