NO.10「出会えたことさえも奇跡で」
 あの時は、こんな奇跡があるなんて思わなかった。





投げることが大好きで。
投げられれば、それで良いと思っていた。
ピッチャーとして、皆と一緒にゲームが出来ることがすごく楽しみだった。

『キャッチャー』というポジションが好きだった。
ピッチャーの球を受け止めるだけのポジションではなく、
試合を組み立てたり、メンバーの意気を高めたり。
それだけでなく。
9人いるチームメイトの中で、
たった2人だけお互いを信頼し合えるポジションていうのが
なんとも言えず誇らしかった。






自分が思い描いていた『野球』というものと、
現実との差がこんなにかけ離れてしまったのは何故なんだろう。





ピッチャーとして、ゲームに参加できると思っていた。

信頼できるバッテリーにいつかなれると思っていた。

いつの間にか、チームは自分と8人の間に大きな溝が出来ていた。

あの人は、いつも目の前の俺よりも、もっと遠くを見ていた。






高校では、どんな野球をするんだろう。





信頼できる

信頼してくれる

そんな人と出会えたら





そんな相手とバッテリーを組めたら





たとえ、それが





願いだけで終わってしまうことになるかもしれなくても





それでも





まだ見ぬ相手に、思いを馳せる。





「三橋・・・くん。ちょっと投げてみない?」





それは奇跡の始まり。
 三橋だけじゃなくて、阿部にとっても三橋と出逢えたことは奇跡だと思います。
(2008.05/20UP)