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こんなところに。
 「まったく、悟浄ってば・・・」
八戒がそれを見付けたのは、もう本日の分の洗濯は終わりちょうど物干し台に全て干し終わったところだった。
 昨日の大雨が嘘の様な久しぶりの秋晴れ。この季節特有の長雨で洗うのを躊躇していたものを一気に済ませ、達成感に満足し戻ってきたところで、ふと、リビングのソファに視線を向けた青年の眉間にみるみる皺が寄った。
 ソファの上には、明らかに自分のものではないシャツが丸まって投げ出されていた。2人暮らしのこの家で、自分のものではないとすればそれはもう1人の住人のもの。
「こんなところに投げ出しておかないで、洗濯籠に入れておいてくださいっていつも言ってるじゃないですか」
 まだ、寝室で夢の住人になっているであろう同居人へ溜息交じりにぼやきつつ、その布の塊を摘み上げた。彼が帰って来る時には、まだ雨が降っていたのであろう。重く湿った布の感触が指先に伝わる。
 だが、それが想像以上に重かったのは、水分だけの理由ではなかったようだ。
「にゃあ」
「?」
 その中からひょっこり現れた小さな生き物。三角の耳がぴくぴくと動く仕草は、まだ大人になりきっていないものだという印象を与えた。
 自分を見上げる黒猫の緑の瞳に何とも言えない感覚を味わわされる。
 きっと、あの時悟浄が見ていた姿はこんな感じだったのかもしれない、と。
「あなたも雨の中、彼に拾われたんですか?」
 湿った布の間から、仔猫を引き上げて視線を合わせながら問い掛ける。尋ねられた方は、何のことを言われているのか、まったく興味を示さず「にゃあ」と一声あげて、自分のわきの下に陳べられている長い指に舌を這わせた。その愛らしい仕草に、知らず知らず口元が緩んでくる。
「て、言うか、僕より断然この子の方が可愛いじゃないですか」
くすりと、口元だけで笑って、腕に抱きかかえると小さな鼻先を人差し指でちょんちょんとつついた。
「あなた、ラッキーでしたよ。あなたを拾った人は、それはもう優しい人なんですからね」
僕みたいな厄介な拾いものを嫌な顔一つせず、受け入れてくれたんですから。
 つつかれた鼻をくすぐったそうに前足で撫でる。そして、また「にゃあ」と短く鳴いた。どうやら、お腹が空いているらしい。八戒はミルクを飲みますか?と仔猫を抱きかかえたまま、キッチンに消えた。



「ばぁ~か」
 その時、リビングの扉の向こうで
「お前だからだよ」
 八戒と仔猫の拾い主がそう呟いたことを、碧の瞳をした青年は知らない。
 お待たせしました。お題開始です。
 初め考えていたものとは、まったく変わってしまいましたけれど、こっちの方が出来が良い(当社比)ので結果オーライ。
 これから頑張ります。(2002.09.28UP)