「良いなあ」
それは、彼の大好きな人が呟いたもの。この綺麗な青年は彼だけにしか分からないようなことを言う。いきなりの呟きで何の事を言っているのか、分からず問いかける。
牛魔王の刺客が慰安旅行にでも行っているのか、敵の攻撃がとんとご無沙汰なある日、一行は街と街の間のただっ広い空き地で休憩を取っていた。
こうしていると、死と隣り合わせの旅をしているなんて思えない、なんだかピクニックみたいだ、と上機嫌で草原に寝っ転がって空を見上げていた時に隣の青年から聞こえてきた。
彼の問いかけに、ちょっと照れたような困ったような眉尻の下がった笑顔を向ける。
「子供っぽいって笑いません?」
聞いてみなければ分からないけど、きっと笑わないだろう。
「僕だけ仲間外れなんですよ」
それだけでは、言わんとしていることが分からない。
彼の怪訝な表情を見て、八戒の表情はさらに困ったような微苦笑に変わる。
「ほら、みんな目の色が空の色と一緒じゃないですか」
悟空は、全てを照らしている金色の太陽の色、
悟浄は、一日の始まりを知らせる朝日の、一日の終わりを見守る夕日の色。
三蔵は、静かな夜を包み込む紫暗の色。
「ほらね、僕だけこの空の色じゃないんですよ」
ちょっとつまらないかも知れないですねぇ、と全然つまらなくないような表情で微笑んだ。いつ見ても、八戒の笑顔は綺麗だと思うけれど、その奥に隠しているものが見えずらいのが厄介だ。
ふと、空を見上げる。ずっと自分は八戒に憧れているのに、その八戒に羨ましがられているという事実に、少しだけ嬉しくなってしまった。心の何処かで「分かってない」と思いながら。
八戒は仲間外れだと言うけれど、それでもやっぱり八戒の碧の瞳が綺麗だと思うし、好きなのだ。 |