あぁ、居たんだ。
 「八戒とぉ、悟浄ってぇ、仲良いよな?」
 食後のまったりとした空間の中で、間延びをした悟空の声が聞こえた。ここは食堂だから、皿を片付ける心配もない。食後のお茶を楽しんでいた八戒は、きょとんと目を丸くして、右隣に座る少年の顔を覗き込んだ。
「どうしたんですか?いきなり」
 ちょうど、三蔵と悟浄は食後の一服を楽しんでいるところらしい。悟空は頬杖をついて、隣に座る青年の顔を見上げた。
「だってえ・・・」
「悟空、とりあえず、その女子高生みたいな喋り方止めませんか?。悟空は、普通の喋り方の方が合ってますよ?」
間延びをした口調に心持ち険しい表情で諌めると、言われた方は、そう?と首をかしげる。どうやら無意識のうちに出た話し方だったようだ。
「で、僕と悟浄は仲良いですか?」
「うん、そう見える」
 悟空の話を要約すると、こういうことらしい。
 八戒は、みんなに優しいし笑顔を絶やさなくて、一緒にいると安心できるけど、悟浄と一緒にいる時の表情の方が、ものすごくリラックスしているそうだ。
 それを聞いて、うーんと考え込んだ後「それは・・・」と呟いた。
「一緒にいる時間が長すぎた所為でしょうね」
「そうなの?」
 納得したのか、しなかったのか良く分からないが、言っていることは分ったらしい。
「そりゃあ、2年も一緒にひとつ屋根の下で暮らしていれば、長所短所もバレバレなんですから猫を被ることもないでしょう?」
「猫・・・」
悟空の脳裏に三毛猫の着ぐるみを被った八戒の姿が浮かんだ。ご丁寧に右手には、何本も風船を持っており、背後には観覧車が見える。そんな想像など気付くはずもなく、ここだけの話ですけどね、と八戒は心持ち声を低くした。
「僕個人的には、悟浄より悟空と一緒にいた方が気が落ち着きますよ」
「え?本当?」
悟空の金色の瞳がパアっと輝く。悟空も三蔵は別格としても、八戒のことは大好きだ。八戒は、柔らかい笑顔で悟空のきらきらした瞳を見つめた。
「はい。だって、悟空だったら、夜遅くまで遊んできて僕を心配させることもないですし、街に出かければ彼の同居人だというだけで得体の知れないお兄さん達に絡まれて無駄な体力使うことも無いですし、どこが良いんだか彼のワンフー(死語)に捕まって、彼の個人情報をしつこくせがまれることもないですし、飲み屋に行けば溜まっているツケを払ってくれなどと言われて恥ずかしい思いをすることもないですからね」
 それに僕、僕の料理を美味しそうに食べてくれる悟空の顔が大好きなんです。
「と、言うことらしいぞ。河童」
「八戒・・・」
 ここは旅の途中の食堂。円卓に腰を落ち着けてのんびりとお茶を啜っている八戒の左隣では、さっきから話題に上っている男が食後の一服のハイライトを燻らせていた。
「あぁ、居たんですね、悟浄。忘れてました」
嘘だ、絶対嘘だ。八戒を除く他の三人が口には出さないが、心の中でツッコミを入れる。
 八戒は、にっこりとそれはそれは綺麗な笑顔を浮かべると、ジープにご飯をあげてきます。と席を立って去っていく。八戒の向かいに座っていた最高僧は、そのすらりとした後ろ姿を横目で見送ってから、はあっと煙を吐いて短くなったマルボロを灰皿に押し付けた。
「貴様、今度は何を怒らせたんだ?」
「・・・・・。昨日買出しに行った時に、ちょっとだけと思って賭博場に行ったら大負けしたこと・・・、だと思う」
 せめて、今日の部屋割りが八戒と一緒ではなかったことがせめてもの救いだと思うしかない。
 八戒の機嫌がこのまま悪ければ、明日車上での精神的な平和の保障すら危ない。
 明日には、八戒の機嫌が直っていますように。神にも縋る気持ちで三蔵と悟浄は、それぞれのパッケージから1本取り出し、火を点けた。
 実はシリアスでも考えていたのですが、あまりにベタだったので、あえてこっち。(2002.10.14UP)