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NO.10「オオクワガタ」
 新聞を読んでいた悟浄がふと呟いた。
「オオクワガタって、そんなにすごいもんなの?」
 それは、彼的には、独り言として片付けても良かったものだったのだが、ちょうどタイミング良く、休憩をしようと二つのマグカップを持って現れた八戒が聞きとめた。
「オオクワガタ・・・ですか?」
「そ。ペットショップで盗まれて、たかだか数匹でもの凄い被害総額が出てるからさ」
新聞に目を走らせたまま、悟浄がカップを受け取り、一口飲んだ。彼の肩越しに、新聞を覗き込んだ八戒がその記事を見つけて「あぁ、これですね」と素早く内容を収集する。
「そうですねぇ・・・。生息はしているけれど、中々捕まえづらかったりするので、大きければ大きいほど高い値がつけられているみたいですけどね」
マニアには、垂涎ものらしいですよ?
「へぇ・・・」
 窓から入って来た風が新聞を覗き込む2人の間をするりと撫ぜて行った。それにつられて、珈琲の芳しい香りがリビングに広がる。
「欲しいんですか?、オオクワガタ」
柔らかい声が悟浄の右耳から聞こえてきた。そちらを向くと、悪戯っぽい表情の八戒の笑顔。それに返すように、悟浄も口角を引き上げる。
「いンや。ムシ育てるなんて、めんどくさいこと、出来ねーし。同じ森の中で見つけたものだったら、もっとイイモノ俺持ってるし?」
その返事に、八戒は少し瞠目した。
「へえ、初耳ですね」
「餌は用意しなくて良いし、寝床は用意しなくて良いし。手がかからないのがサイコー。・・・見たい?」
「見せてくれるんですか?」
「もちろん」
煙草を灰皿に突っ込み、そのまま廊下へ続くドアを指差した。
「洗面所に行ってみろよ」
いつも使っている場所にそんな昆虫がいたかどうか、はっきり覚えていない。訝しがりながらも、八戒はマグカップをテーブルに置き、洗面所へ向かった。
 しかし、それらしいものは、昆虫はおろか、植物すらもそこには見当たらなかった。八戒は、リビングにいる悟浄に大声で声をかけた。
「どこですか?」
悟浄の笑いを含んだ大声がリビングから返ってきた。
「いるじゃん、鏡にバッチリ見えるだろう?」
 鏡に映るのは―――自分の顔―――。
何を言い出すんだろう、あの男は、と少々呆れながら、リビングに戻る。紅い髪の男がニヤニヤした顔で迎えてくれた。
「いただろう?。ちょっとデカいけど、手はかかんなくて良いぜえ」
 そんな子供っぽい様子に半ば呆れながらも付き合ってやることにする。
「いましたよ。ちょっかい出すと、かなり凶暴そうでしたけどね?」
「もの凄い希少価値なんだぜ?オオクワガタなんてメじゃないくらい」
「そうですか?僕には、そこまで価値があるようには見えませんでしたけど」
 クスクスと、悟浄の冗談に付き合って八戒は知らず知らず笑い声を立てると、憮然とした声で悟浄が反論した。
「あるんだよ」

 森で見つけた云々は、ただの例えで冗談と取って貰ってかまわないのだが。
 悟浄にとっては、オオクワガタなんかよりも貴重だと本気で思っている。
 自分の紅い髪を自分と同じ「血の色」と感じたという男。あの瞬間、自分は1人ではないと思えてどれだけ救われただろう。
 そんなことは、一緒に暮らすようになってずっとずっと後になってから気付いたのだけれど。
 どーした?山崎!。ラヴラヴ話書けるじゃん!!
 書いた本人が一番ビックリしています。