絶滅するのは、人間だろうか?妖怪だろうか?
ここ最近、原因の分からない妖怪の凶暴化が頻繁に起こっている。それまで、人間も妖怪もお互いに共存することを望み円滑に毎日が繰り返されていたはずだった。
昨日まで親友だったもの、恋人だったもの、それが明日には大事な人を殺めていく。まるで何かにとり憑かれたように。
もう最近では、たった数ヶ月前の共存生活が嘘のように、妖怪と人間の間にヒビが入り始めているのだった。
「貴方は兎も角、僕は妖力制御装置を外したら、街の方々に袋叩きに遭いそうですね」
にこやかな八戒の台詞も、既に冗談の域を超えている。悟浄はその台詞を聞いて眉間に皺を寄せた。ハイライトの煙がゆらゆらと昇っていく。
「ま、そんな冗談は兎も角」
先程までの笑みを引っ込めて、八戒は真っ直ぐに悟浄の紅い瞳を見つめる。
「この凶暴化が妖怪のみに発症しているとしたら、遅かれ早かれ僕達もどうなるか分かりません。更に僕達、幸か不幸か生粋の妖怪ではないですし」
八戒の顔に自嘲的な笑みが浮かんだ。
「この凶暴化の原因になるウィルスか何かが、どのくらい僕達に効くかは、はっきり言って予測できませんね」
悟浄がぷはあ、と大きな煙を吐き出す。
「ぶっちゃけ」
煙草の先にできた灰をトントンと灰皿に落として、言葉を続けた。
「凶暴化した妖怪が人間を絶滅させるか、それに抵抗した人間が暴れだした妖怪たちを皆殺しにするか。俺もお前もどっちについても裏切り者みたいだよなあ」
お前だったらどうする?
言葉だけ聞くと、軽く言っているように感じるが、その紅い瞳は真剣そのもの。その深紅の瞳を真っ直ぐに見つめて、八戒は一言一言言葉をつむいだ。
「そうですねえ、元々どっちつかずなら、もうどうでも良いじゃないんですか?。僕は僕のために生きたいと思います」
戸惑いのない深い碧の瞳、その真っ直ぐな瞳を実は悟浄は気に入っている。迷いのない今の彼こそが、真の彼なのだと思うから。クッと喉の奥で笑い奇遇だねえ、と返す。
「俺もそー思っていたトコ」
いつか。
どちらかの種族の最後の一人が消えようとも。
もしくは、
自分達のどちらかが、どちらとも我を失うその日まで。
妖怪でもない、人間でもない、自分だけの味方でいよう。 |