NO.19「ソーセージ」
 「おはよう、ご飯ができたわよ」
さっと開かれるカーテンと、柔らかい彼女の声。僕もかなりマメな方だと思っていたけれど、彼女はそれ以上に甲斐甲斐しく家のことをしてくれる。
 目を擦って、サイドテーブルに置いてあった眼鏡をかけると、彼女の幸せそうな笑顔。僕はその笑顔を見るのが好きだった。
「身の回りの支度をしてきてね。その間に仕上げちゃうから」
寝室の扉を開けると、珈琲の芳しい香りがした。まだ完全に頭が目覚めていない僕とは対照的に、彼女は活き活きと部屋を出て行った。
 テーブルに用意された、パンと珈琲と目玉焼き。リビングに辿り着くまでにようやく僕の頭が活動を始め、まだ彼女におはようを言っていないことに気付いた。
「おはよう、・・・いつもやってもらっちゃってごめんね」
席につきながら、向かいの彼女に声をかける。彼女は僕と同じ碧の瞳を真っ直ぐに僕に向けて、微笑んだ。
「私は、別に大変だなんて思っていないわ。家の中の事だけしているんですもの」
それが結構重労働だと、僕は知っている。でも、彼女がそう言うなら、その言葉に甘えさせて貰おう。その話はもう終わり、とでも言うように、彼女は突拍子もないことを言い出した。
「共食い。ですって」
「え?」
悪戯っ子のような表情で僕を見返しながら、目玉焼きの乗った皿を指差した。女性らしいすらりとした指先に、一瞬目を奪われる。
「昨日読んだ小説に書いてあったの、双子の男の子がそう言ってご飯の準備をしているのよ?」
私達と一緒ね。
あぁ、これのことか。
「なるほど。『ソーセージ』ね」
そう言って、お互いに顔を見合わせてクスクスと笑い出す。
―――双生児―――
 いろいろあったけど、やっと出逢えた僕の片割れ。もう1人の僕。こんな些細な日常までもが、1人じゃないってだけで、こんなにも愛おしい。
 こんな日がずっとずっと続くと僕は、僕だけでなく僕たちは信じていた。



 そう、信じていたんだ。
 出典は、言わずものがな「ステップファザー・ステップ(@宮部みゆき)」
 このお題がなければ、悟能&花喃のSSは書かなかったかも知れない・・・。