NO.2「裏メニュー」
 実は、目の前の穏やかな笑顔をしている男は付き合ってみると、中々どうして扱いづらい男だということが分かる。実は、この笑顔も笑顔でいれば、ある程度のいざこざとは無縁に過ごせる。と、いう彼なりの処世術なんだろう、ということも分かってくる。
 付き合いが長くなり、一緒にいる時間が多いため、機嫌が良い時の笑顔と、そうでない時の笑顔も区別がつくようになってきた。
 そして。
 今は、きっと機嫌が悪い時の笑顔(レベル2ぐらい)であろう。
 食卓をはさんで向かい合わせに座り、本日の献立を見れば一目瞭然だった。
「八戒さん」
「何ですか?」
 向かいに座る男は、笑顔で本日のメインメニューに箸をのばしていた。悟浄もそれを真似るかのように、箸でその同じ形状の物体をつつく。
「本日のメインデッィシュは?」
「ロールキャベツですけど?」
「そーだよなぁ・・・」
「嫌いでした?、ロールキャベツ」
「いや・・・」
嫌いじゃない。嫌いじゃないけれど、これは納得がいかない。
「八戒さん」
「何ですか?」

「なんで俺のロールキャベツは、具までキャベツが押し込んであんの?」

 どこを切っても切断面は、同系色の黄緑色をしていた。ご丁寧に、八戒は悟浄のものだけ具の挽肉の替わりに幾重にも巻いたキャベツを、更にキャベツでロールしていたのだ。
 八戒は、優雅な箸捌きで肉の詰まった己のロールキャベツを、口に運びつつすました顔で答えた。
「納豆が入ってなかっただけ有難く思ってくださいね」
「ぜってぇ食いたくない・・・。なあ、俺なんかした?」
 時々、同じ食材を使って全く別のものを作って悟浄にあてがうという、手の込んだ嫌がらせをするのだ。この間は、八戒が麻婆豆腐を食べているのを見ながら冷奴(薬味なし)でもそもそと食事を済ませた。だか、必ずこういう嫌がらせは、悟浄の責任で八戒が腹を立てている時なのだ。冷奴を出された時は、確か咥え煙草でトイレに行き、手を洗っている時に洗面台に灰を落としてそのまま放っておいたからだった。
 今回は、いくら考えても身に覚えがない。納得がいかず答えを求める悟浄に、八戒は先ほどと同じ笑顔で向かいに座る男をねめつけた。
「僕だって男ですから、貴方の気持ちは分かります。でも、そこまでして隠すべきものなんですか?」
その根性が気に入らないです。
 八戒は本日の午後、悟浄の部屋を掃除していて、それを見つけてしまった。

 表向き・インディーズバンドのビデオ。
 だが、パッケージの中身は、全く別のものが入っているのだ。

「『激撮!!、○○学園更衣室』なんて、もっとイケイケのお姉さんが出ているビデオかと思いましたよ」
「そりゃあ、たまには清楚な女の子の生着替えにも興味が沸くでしょう・・って。そーじゃなくて」
「・・・・。ロリコン。・・・ヘンタイ」
「人の話を聞けよ!!、エッチビデオの何が悪いんだよ」
「別に悪いとは言いませんよ。ただ、コソコソと隠している根性が気に入らないだけで」
「あのテのビデオはひとりでコッソリ楽しむのが醍醐味だろーがよ!」
「どこの中学生ですか?貴方。良い歳して・・・」
 とうとう悟浄が箸をテーブルに叩きつけた。
「じゃあ、お前は、どうすれば満足なわけ?」
「変な小細工なんかしないでくれれば良いんです」
別に本棚に並べなくても良いですから、押入れの中だろうがどこだろうが、エッチビデオにもエッチビデオの権利を与えてあげてください。
 時々は、僕も拝見させて頂きますから
思いもかけない八戒の申し出に今度は、冷やかした視線を向ける。
「なに?お前も見るの?」
「いけませんか?」
「いやいや、なんだか意外な取り合わせだと思ってよ」
 かくして。
 話の流れで本日の就寝前、その「生着替え」の上映会をすることになり。
 非日常的な夕食は終わった。



 結局。
 隣でビデオを見ている八戒は、とてもそのテのビデオを見ている様子ではなく、顔色どころか、表情ひとつ変えなかった。更に淡々と見終わった後でひと言。「これ、生着替えじゃなくてヤラセですよ、あんなとうの立った女子高生が出て、不思議に思わなかったんですか?貴方」という感想を述べられ、悟浄はもう二度とこの家で上映会はしないと心に決めた。
 だが、時々、悟浄のコレクションから色々見ているらしく、「今日のは女優さんのわざとらしさに笑わせていただきました」とか「ありえないシチュエーションが楽しかったです」との感想を、朝の食事の際に聞くことになる。
 悟浄のコレクションが家の外に流通し始めたのは、ちょうどその頃からである。
 ・・・・・。
 最近下ネタが多くてすいません。。。
 「裏メニュー」もうちょっと分かりやすいものにすればよかった・・・。と、自己反省。