[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
NO.6
「本を読め」
本好きが周りにいることは、良いことだと思う。
何か読みたくなったら、そこへ行けば大体のものは揃っている。そんなこと、今まで思いもしなかったが・・・。
世話を押し付けられたドーブツが、その本好きの友人のところに入り浸っている。最近は平仮名が読めるようになったそうだ。
―――何でもいい、お前の面白いと思ったものを今度貸せ―――
不器用すぎる依頼に、ふうわりとした笑顔を浮かべて、彼は喜んで請け負った。
「おい・・・」
「何ですか?」
「確かに、俺は何でもいいとは言ったがな」
金禅童子の部屋で、2人の男が議論をしている。
方や、「太陽のようだ」と賞賛された金色の絹のような髪を1つに束ねたこの部屋の主、金禅童子。方や、彼の友人で一見軍事オタクと噂されているが実物をその目で見たが最後、それらの者を魅了してしまうカリスマ的存在の天蓬元帥。
その両者の間には、B4サイズの中綴じの本が置かれている。
タイトルは、「すてきな奥さん」。
「だからと言って、これは嫌がらせなのか?」
眉間に皺の寄った金禅の台詞に、さも心外だと言うように天蓬が眼鏡の奥の瞳を瞠目して見せた。
「失礼ですね、今の僕の中でのマイブームですよ?。この一冊の中に、美味しいお弁当の作り方から始まり、肌のお手入れ、更には、子育てに関する奥様方の交流のページなど・・・」
「分かった、もういい」
そのまま喋らせておくと、際限なく話し続けそうな天蓬を一言で黙らせる。そもそも、天蓬にまともな趣味を期待していたのが間違っていたのかも知れない。
ちょっと言い方を変えてみよう。
「じゃあ、お前の本棚の中で最近誰かに貸した本を貸せ」
天蓬のような趣味の者が、この天界にごまんといるとは考えにくい。誰かに貸したものだったら、これよりはまともなものだろう。
「ワガママですねぇ、分かりました、持って来ますから待っていてください」
やれやれという表情をして、白衣の男はその裾をひらりと返して一度退席をした。手には大絶賛の「すてきな奥さん」を携えて・・・。
5分後。
「お待たせしました、悟空の絵本以外で最近戻って来た本ならこれですね」
と黒い表紙の文庫本を差し出す。金禅は、その表紙の劇画的なイラストを訝しがりながら、それでも手に取りパラパラと開いて一文を読んだ途端顔を紅潮させパタン!と本を閉じた。
「おい!」
「何ですか?、今度は・・・」
「ポルノ小説じゃねえか!!」
「そんなのタイトルで丸分かりじゃないですか、あなた何を見ていたんですか?」
「開き直るんじゃねえ!!」
折角本を読む気になっていたのに、この目の前に立つ友人のお陰で出鼻を挫かれてばかりだ。金禅は自分の額にだんだん血管が浮いてくるのを感じていた。
「でも、あなたに言われた通り、この本は一昨日捲簾から返却された本ですよ?」
あの男か!!
「その前には、観世音菩薩に貸していて、中々貸出率の良いものなんですけどねぇ・・・」
あのババアも借りてたのか・・・。
だんだん怒る気も失せてきた。俺の周りには、こんな奴ばかりしかいないのか?と、諦めた方が良さそうだ。
「どうするんですか?借りるの辞めます?」
ことんと音がしそうな様子で天蓬が小首をかしげる。見る者が見たら一発でコロリといきそうな仕草。だが、金禅には通用しない。深々と溜息をついて、今度訊ねて行った時にでも、吟味して借りることにした。
その晩。
「おい悟空?」
ベットで寝っ転がって本を読んでいる悟空に声を掛ける。悟空はあるページでぴたり視線を止めたまま声だけで返事をする。
「なに?」
「アンパンでも、食パンでも、ロールパンでも何でも良い、まともな本を読めよ」
「うーん」
返事は相変わらず上の空だ。そんなにも夢中になる絵本が気になって訊いてみることにした。
「今は何を読んでいるんだ?」
「え?これ」
見せられた表紙は「ジャックと豆の木」。
開いたページでは、少年が大きな豆の木につかまって登っている。
「こんなに大きな豆の木があったら、ずっと豆をとってもなくならないよな!!」
・・・・・。
論点はそこじゃないだろう。というツッコミは、この際ナシにしよう。
周りにに本好きがいることは良いことだ。
ただ、それは
その相手によるのかも知れない。
外伝ですー!。
これは、八戒さんでなく、天ちゃんのお題だろう!と思ったので・・・。
八戒さんと天ちゃんでは、性格がかなり違うので書いていて楽しかったですv。