同族嫌悪(ロイver.)
 −・・・兄さんが、大佐を毛嫌いしてる理由が分かった気がする−
 −同族嫌悪?−
 いつも一歩引いた目で見ているアルフォンス君の見解だから、きっと間違いではないのだろう。
 大佐と、鋼の錬金術師・エドワード・エルリックの共通点。



「って、どう思います?」
 アルフォンスが見舞いに来てから数日後、再び病室を訪れたフュリーは、ベッドの上で上半身を起こしている兄貴分に笑顔を向けた。
 丁度、件の人物は、ホークアイ中尉と一緒に検査の結果を聞きに病室を出ている。今、室内にいるのは、彼とハボック少尉の2人きり。
 鋼の兄弟の話題は事欠かない。特に、東方指令部時から付き合いの長い彼らは、エルリック兄弟を弟のように可愛がっている。その場にいなくとも、兄弟達の話題は彼らの雰囲気を明るくさせるものがあった。両足の感覚をなくすというリスクを背負った少尉に、何か明るい世間話をとフュリーが持ち出したのが、先日の弟との会話だった。
「大佐と、大将ねぇ・・・」
ハボックは、病室では止められているので、仕方なく煙草を真似たパイプを噛んでいる。禁煙するつもりはなくとも、禁煙させられているのは少々辛いものがある。ニコチンの臭いを懐かしく思いながら、遠くを見るように視線を宙に浮かせた。
「まあ、大将は、根っからのお兄ちゃん気質だからな」

 どんなにケンカに負けても、暴走をアルフォンスに止められることが日常茶飯事だとしても、エドワードは、アルフォンスの兄であることには変わりはない。
−弟には手を出すな−
守りたい弟のためだったら、自分すらも投げ出しそうだ。スカーの前で動けなくなったアルフォンスを最後まで守ろうとした少年の姿が思い浮かぶ。
 更に。
 予期できなかったとは言えホムンクルスに刺された自分を、己の怪我をおしてまで荒療治ではあったが処置をし、もう一人の部下を助けるために重傷なはずの体を引き摺って行った自分の上司。朧げな意識の中、やっぱりこの人には敵わないと思った。

「似てるっちゃ似てるかもな」
それで、大将が大佐を受け入れられないのにも、納得がいく。
ハボックがぼんやりとした口調でそう結論付けたその時。
「私は納得がいかんぞ」
出入口から、声が聞こえた。
「大佐、聞いてたんスか?」
ホークアイを従えて、隣のベッドの住人が戻ってくる。
「聞いてたんじゃない、聞こえたんだ」
その顔にはっきりと「納得がいきません」という気持ちを出したまま、ベッドに不貞寝をするように、シーツに潜り込むと部下に背中を向けてしまった。
 その子供じみた態度に、フュリーとハボックは顔を見合わせる。確か、彼はエドワードに嫌われこそすれ、嫌ってはいなかったと思っていたのだが。むしろ、オモチャにして遊んでいるような感は拭えないまでも、好意を持っていると思っていたのだが、それは間違った見解だったのだろうか?。
 2人の耳に、くすりと笑い声が聞こえた。
「2人とも勘違いしてるわよ」
大佐がベッドに潜り込むまでの様子を見ていたホークアイが口元に笑みを浮かべる。
「大佐は、エドワード君と似ていることに納得していないのではなくて、エドワード君に頼られない、むしろ毛嫌いされている、ということに納得をしていないのよ」
「ホークアイ中尉!、余計なことは言わなくても良い!」
 シーツの中から、もごもごとした上司の抗議。まったくもって迫力がない。
3対の呆れたような視線が、ベッドの白い小山に向けられた。
「大佐・・・。大人気ないっスよ」
シーツ越しに部下の視線を痛いほどに感じ、本格的に不貞寝を決め込む。



 真っ直ぐに前を向く瞳が気に入っている。それを裏づけするような迷いのない意志も好意を持つ要因の1つだ。それがエドワードだということは、ロイ自身だって分かっている。
 だが、その反面。
 一見強く見える彼が大事な者のためなら、自分の全てを投げ出してしまう、そんなところがあることにも気付いていた。そんな風の噂を聞くたびに、その場に居られなかった歯がゆさが感じる。
 だが、自分も。
 自分の周りの誰かが犠牲になるのは、これ以上許さない。そのためになら、自分も部下も助かる最適な方法を選ぶ、それが自分が前線に立つことで上手く進むのなら、それすらも厭わない。
 
「周りの誰か」の中には、当然のようにエドワードも含まれているが、それとは別に、1人の部下としてだけではなく、ただ純粋にエドワード・エルリックという少年を守りたいとも思う。
 それでも、
 自分と対等を願う彼は、そんなロイの腕の中には収まってはくれないだろう。

 そんな少年に好意を持ってしまったのだから、腹を括るしかないだろう。彼とは遠く離れたベッドの上で、彼のことを思った。






 だが。
「何も毛嫌いまでしなくても良いじゃないか、鋼の」
結局行き着くところはそこ。同じものを持っているからと言って、苦手意識を持たれるなんてあんまりだ。
 なんとも言い難い侘しさを感じながら呟いたぼやきは、果たして同室者の耳に届いたのだろうか?。
 聞こえてまた、呆れられても構わない、蓑虫のように外部との接触を断ってしまおう。、シーツをぐるぐると己の体に巻き込んだ。



 緊張の中の、ちょっとした病室の昼下がりの出来事。
 10巻より。
 確かに、エドと大佐はそういうところは似ているかも・・・。
 ギャグにしようか、シリアスにしようか迷って結局どっちつかずのものになってしまいました・・・。
(2005.4.05UP)