笑顔メイカー
「沖田さん」
 休日、フラフラとかぶき町を歩いていた総悟は、後ろから呼ばれる声に視線を向けた。視線の先には、密偵も勤まるんじゃないかと思うほど特徴のない少年。2.3拍後にようやく自分の記憶合致したと言うようにポンと右の拳を左の掌に当てた。
「メガネ・・・。万事屋の?」
「なんで、そこで間が開くんですか?。しかも倒置法の上、疑問系!?。明らかに僕のこと忘れてたでしょ?!、アンタ!!」
 畳み掛けるようなツッコミは、銀髪の胡散臭い万事屋の助手を務める少年に間違いなかったらしい。興味のない人間はすっぱり記憶のキャパシティから抹消するので、覚えていただけ、この少年は総悟にとって関心がある人間だという証拠なのだが、残念ながらその事を眼鏡の少年、志村新八は知らない。
 一通りツッコみ終わると、ふぅとため息を吐きつつ『まあ、良いです。影が薄いのは今に始まったことじゃないんで』と呟き、改めて心持ち視線を上げ総悟を真っ直ぐに見上げた。
「沖田さん、骨折して入院したり、披露宴騒ぎでバタバタしていたから、ちゃんとお礼を言えなくて」
「?」
「この間は、有難うございました」
ペコリと、礼儀正しくお辞儀をする新八を見下ろして、『この間』がこのメガネの姉の婚約者騒動のことだと思い至った。
「多分、九兵衛さんの言ったことは、間違っていないんです。僕1人じゃ、柳生家には勝てなかった。当てにしたつもりはなかったけど・・・」
 すっ、と視線が外れ、新八の眼鏡の奥に見える瞳が伏せ眼がちになった。そこに浮かぶのは、哀しいとか、悔しいとか、そんな負の感情を無理やり押し込めたような、歪んだ笑顔。
「だから、有難うございました」
 そう言って、再び深々とお辞儀をする。
 自分のような田舎道場の芋侍とは違う、武士らしいまっすぐのびた背筋。目立たない容姿のお陰で気付く者は少ないだろうけれど、実は所作が綺麗なのだ。
 おそらく、幼い頃から侍の子供として、立ち居振る舞いを厳しく躾けられたのだろう。あの鬼のような姉の躾なら、否が応にも体に染み付くに違いない。
 その姿を見て、総悟はフンと鼻を鳴らした。
「勘違いしてもらっちゃあ、困るぜィ。メガネ、あン時、俺は言ったはずだぜ?」



 ―俺も、我ァ通しに来ただけでさァ―



 確かに、柳生流のインテリ達の鼻をへし折りたいとか、このまま、近藤と猩猩星の王女の婚儀が決まったら、ゴリラを姐さんと呼ばなくてはいけなくなるのも嫌だとか。そんな理由から近藤の後を追って来たのは事実。

 でも。

 それだけでなく。

  近藤のストーカーのお陰で、この姉弟の情報は嫌でも耳に入る。2人の絆が強いこと、お互いがお互いを、時には自分以上に大事にしていることを。
 両親のいない、2人だけの姉弟。似た境遇の自分達。
 体の弱い姉1人を置いてまで、近藤の想いに惹かれて、遠く江戸まで来てしまった。それを決めたのは自分だけれど。
 総悟はふと、遠く離れた自分の姉を思い出す。離れて暮らしてはいるけれど、姉に幸せになってもらいたいと思う気持ちは、新八にだって負けていない。

 だからこそ。

 目の前にいる少年には、この姉弟には幸せになってもらいたかった。納得のいく結婚をしてもらいたかった。姉に哀しい想いを、弟としてして欲しくなかった。

 ―本当に我が儘だなァ―

 そんな心情など、目の前の少年は知らない、言ってないし。でも、それで良いと思う。
「沖田さん?」
 黙ったまま自分の顔を見つめる総悟を不審に思って、新八が声をかける。
「なんでもないでさァ。それより今度昼飯奢れィ、それでチャラ」
「何でそんなに高圧的?」
「だって、土方さんにはマヨ奢る約束しただろィ?」
 うっわ、なんでバレてるの?と喚く少年を見下ろして、総悟は笑みを浮かべる。普段から表情が乏しい所為で、新八には気付かれなかっただろうが。
 この少年には、笑っていて欲しい。そうすればきっと姐さんもが笑顔でいるはずだから。
 姐さんが笑っていると、遠く離れた姉も笑顔でいてくれる気がした。
 初めての銀魂小説がコレ?って感じですいまっせーん!。なんだか尻切れトンボだし。
 お花ちゃんズは可愛いので好きです。ティーントリオ(+神楽)組はもっと可愛いので好きです。
 こんなグダグダ感満載のSSですが、『ミツバ編』を見てから書きたくなって形に出来て良かったです。

(2008.3.7UP)