お盆の前だから、お休みを貰おうと思ったのに。
「え、ナニ?。新八休む気?」
の一言で却下された。
「酷いと思わない?、神楽ちゃん!。別に今日だって仕事が入っているわけじゃないのにさ!」
駄メガネ新八がソファに座る私に愚痴をこぼしている。その間も、日課となってしまった洗濯物の始末でせっせと手だけは動いている。
新八、どこまでも律儀と言うか、生真面目と言うか・・・。やっぱり新八は駄メガネネ!、そんなに文句言うなら、そんな雑用やらなくても良いのに・・・。
この間、銀ちゃんとケンカした時にも、新八が文句言いながらハタキを振り回していたから、優しい私がそう教えてやったら、ヤケに鋭い目で私を見返しながら
「こまめにやらないと、後からしわ寄せが来て、結局大変な思いするのは僕なんだよ?。僕がほおっておいたからって、銀さんとか、神楽ちゃんとかがやってくれるわけじゃないでしょ?」
と、返されたのでもう言わないことにした。
だって、新八の言う通り、私も銀ちゃんもやるはずないから。だって、これは新八の仕事ネ。洗濯機も、掃除機も全部新八が使うものだもの。
新八の文句を右から左に受け流しながら酢昆布を食べている私に、新八は「あーあ」と大きなため息を吐いた。
「神楽ちゃん、最近立ち居振る舞いが銀さんに似てきたよ?。女の子なんだから、もうちょっとさ、こう・・・」
地味な顔のせいであんまり気付かれないけど、綺麗な形をした新八の眉が顰められた。実は、新八のこんな顔は好きだ。私のことを心配してますよーって顔に書いてあるから。
新八は、いっつも自分以外の心配をする。依頼人のこと、銀ちゃんのこと、私のこと。
大体は銀ちゃんの心配ばっかりだけど、私のことを心配している時は、私のことだけが新八の中を支配しているんだから。だから、こんな顔の新八を見るのは、ちょっと好き。
でも、
私は、いつでも銀ちゃんの味方だ。だからってわけじゃないけど、今回も銀ちゃんの肩をもむ。
あれ?、肩をもつ?、肩をもむ?、もうどっちでも良いネ!。
「今回は、新八が折れるべきヨ」
「何でだよ?、お盆の直前でしょ?。お墓の掃除もしなくちゃならないのに」
「今日だから駄目アル。昨日でも、明日でも良いけど、今日だから駄目ネ」
「なんだよ?、それ。ワケ分かんないから」
ワケ分かんないのは、お前の方だ!、と心の中でツッコミを入れた。ツッコミは、新八のものでしょ?、ツッコミ失くしたら、お前はただのメガネになっちゃうヨ!。
私は知っている。銀ちゃんが今1人で仕事に行っているのも、それを新八に内緒にしているのも、その理由が何なのかも。
「新八、本当に分かっていないアルか?」
そう問いかける私を「何が?」と見返した瞳は、一点の曇りもない。真直ぐ見つめる大好きな新八の顔だ。あー、本当に分かってないのネ、この駄メガネ!。
本当に、このメガネは他の人のことには聡いクセに、自分のことにはまったく気にしない、キングオブ駄メガネよ。
私の口から言っちゃうのは、銀ちゃんに悪い気がして、言わないでおくことにした。その代わり、思いっきりバカにしたような笑みを浮かべてやった。
「分からないなら、それで良いアル。私の口からは、とてもじゃないけど言えないネ」
「うわ、なんだよ!。気になるじゃんかー!」
そう言っている間に、階段を上るやる気のない足音が聞こえてきた。私は、玄関の扉が開くより早く、そちらに向けて走った。この新八のボケっぷりをいち早く教えたくて。
「たでーまー・・・」
「銀ちゃんお帰りヨー、聞いてよ、新八がねー」
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