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街角の風景(?)
 恐ろしいものを見た・・・。
 「それ」を見た悟空の素直な感想である。
 彼だけは、絶対に怒らせないように、敵に回さないようにしよう・・・。彼の動物的な本能が、そのことを正確に伝えていた。



 その日は、久しぶりに早い時間に町に到着することができた。どうやら、本日大きな祭があるらしい。町中が人々でごった返し、屋台が何軒も軒を連ねる。屋台の誘惑に負けそうになる悟空を他称「飼い主」がハリセンで追い立て、ようやく一行は空いている宿屋を見つけ腰を落ち着かせた。
「困りました。3人部屋しか空いていないそうです」
 記帳を済ませ一行の元に戻って来た八戒は、やや困惑の表情を浮かべている。生憎、ゲストベッドも全て出払っているらしい。ただでさえ疲れているのだ。宿屋に泊まった時ぐらいゆっくりと休みたい。それは4人とも同じ意見であろう。
 話し合いが始まろうかという矢先に、意外な人物から意外な提案が出た。
「あ、俺良いわ、どっか違うところ捜すから。お前ら3人でその部屋使って」
ハイライトに火を点けながら、悟浄がアッサリと言う。
「・・・・・。どうします?、三蔵」
「コイツがそれで良いって言ってるんだ、何か迷うことがあるのか?」
 悟浄の申し出に八戒が意外そうに碧の瞳を見開き、そのまま隣の青年に視線を移し指示を仰ぐ。一方訊ねられた三蔵の顔にはありありと「もう、何でも良いから休ませろ」と書かれており、その表情と同じく返答もぞんざいだった。
 話は纏まった。悟浄は宿泊するには十分な金を受け取り「じゃーね~v」と手をひらひらさせながら、再びドアをくぐり雑踏の中へ消えていった。

 部屋へ着くと、三蔵は当然のように椅子にふんぞり返り八戒から受け取った茶をすすりながら新聞を読んでいる。悟空の方を見ると、先程の町中の雰囲気にまだ後ろ髪を引かれているようだ、チラチラと窓の外を窺っている。そんな悟空の様子に微笑ましいものを感じながら、食料が尽きてきていたことを思い出した。碧の瞳が新聞から目を上げない青年を窺う。
「三蔵、食料が足りなくなってきているので買ってきますね」
 ちらりと紫暗の瞳を動かし、八戒を一瞥すると「マルボロも買い足しておけ」と言い置き再び記事に視線を戻す。これで許可は下りた。そこで、悟空に視線を戻し「一緒に行きますか?」と問い掛ければ、悟空の顔にぱああああっ!と満面の笑みが広がった。



 そして今、買出しの真っ最中である。
 『荷物持ちのお礼』という名目で悟空の手には、さまざまな食べ物が持ちきれないほど溢れている。普段食べている物でも、屋台で買うとどうしてこうも美味しさが違うのか。八戒の優しい笑顔に見守られ、ホクホクしながら報酬にありついている悟空の耳に、聞き慣れた声が聞こえて来た。
「なぁ、良いだろ?」
「え~、どうしよぉ?」
「俺、旅していて泊まるとこねーんだよ。どーせ泊まるんだったら、君みたいな美人と一緒に一夜を明かしたいじゃん」
 ・・・・・。どうやら、ナンパの最中らしい・・・。そうか、ヤケに物分かりが良いと思ったらこういうことだったのか、と改めて納得した。
 確かに悟浄にしてみれば、同じ部屋で毎日見慣れている男3人と顔を突き合わせているのなら、ナンパでもしてイイ気持ちになってゆっくり休みたいだろう。ご苦労なことで…。と、何となく聞き耳を立てている間も会話は続いている。
「でもぉ、そんな上手いこと言って、あたしとは一夜限りのお付き合いなんでしょ?どーせ可愛い恋人が居て、あたしのことなんか忘れちゃうわよね」
「ナニ言ってるんだよ。俺恋人居ないし、仮に居たとしてもソイツより君の方に気持ちが行っちゃうって」

―――殺気!!!  

悟空は一瞬辺りを見回した。またしても、紅孩児の刺客か!?。しかし、鋭い気配が発せられた方向へ目をやってもそれらしい影は見当たらない。
 金色の視線の先には、相変わらず笑顔を浮かべている八戒の姿のみ。彼にも、悟浄の声が聞こえたのだろう。碧の瞳は、会話のする方へ向いていた。先程、自分を見下ろしていた時と同じ優しい笑顔だ。
しかし・・・。
 なんだろう?いつもの八戒の笑顔とちょっと違う。
 それが、優しい表情をしながらも目が笑っていないことに気付いた時、次に食べようと持ち直した焼きとうもろこしを思わず取り落としそうになった。
「すみません、悟空。ちょっとここで待っていてくださいねv」
語尾についたハートマークが、尚更恐ろしい。
 八戒は笑顔を貼り付けたままそういい残して、雑踏の中を聞き慣れた声に向かって一直線に歩いて行った。

「ごじょうv」
 一瞬、周りの温度が5度ほど下がった。と、思ったのは気のせいか?
 くききききき。と音がしそうなほどぎこちなく、呼ばれた方に顔を向けると、すらりとした長身の青年が笑顔で立っていた。
にこにこにこ。
 笑顔のはずなのに、なぜ般若の面が彼のバックに浮かぶのか?
「はか・はかはかはか・・・。はっかい?」
 お陰でどもってしまったではないか。それまで悟浄しか見ていなかったナンパの相手は、今は八戒の笑顔に熱っぽい視線を送っている。
 騙されんな~。この笑顔が曲者なんだ。それで俺がどんだけ泣いたことか・・・。
 そういいたいのは山々だが、それを本人の前で言えるほど命知らずではない。
 相変わらず、笑顔を貼り付けたままの八戒が薄桃色の唇が動かした。
「僕、以前にもあなたには言ったことがあると思いますが、確認させていただきますね」
―――ウワキは大目に見ますけど、ホンキは許しませんよ?―――
 賑やかな往来に一陣の風とともに-50度のブリザードが吹きぬけた。そう思ったのは、悟浄だけだったかも知れない。
「それでは、ごゆっくりv」
 硬直したままの悟浄をそのままに、八戒は一礼すると再び笑顔で立ち去っていった。

「お待たせしましたv さ、帰りましょうか」
三蔵が待っていますよ?
 焼きとうもろこしを口に入れる直前で固まってしまっている悟空に八戒が声をかけた。先程と比べると、かなり機嫌は直ったらしい。いっそ鼻歌でも歌いそうな八戒の後を、中断させられていた食事にようやくありつけた悟空が続く。
 ふと何気なく悟浄が居た場所に視線を移すと、悟浄はまだ先程と同じ格好で立っている。
「一緒に暮らしていた時にも、似たようなことがあったんですよ」
 よいしょ、と荷物を抱え直して八戒が誰に言うでもなく呟いた。
「そん時、なんかしたの?」
素朴な疑問だったのだ。しかし、悟空は訊かなきゃ良かったと後悔することになる。
「あの時は・・・、悟浄が3日間帰って来なくて、やっと帰ってきたと思ったら香水の匂いがしたんです。それだけならまだ許せたんですが、本人では気付きづらいところにマーキングされてるわ、出掛けた時と違う下着を着けて帰ってくるわ、それはそれは目に余るものがあったんですよ」
 仕方ない人でしょう?と言わんばかりに深い深いため息をつく。それから、言葉を続けた。
「だからその日の夕飯、デザートの杏仁豆腐に同じアーモンドの匂いがする薬品を隠し味に入れて出したんですが・・・」
なんでバレたんですかねぇ?。
 う~ん、と本気で考えている八戒の隣では「ごじょお~~~~。生きてて良かったよ~~~」と涙を流さんばかりに喜ぶ悟空の姿があった。



 そして、翌日。
 合流した悟浄の体からは、香水の香りはおろか、石鹸の匂いすらしなかった。彼が何処でどんな一夜を明かしたかは知らないが、とにかく、命にかかわることはないらしい。
「お帰りなさい、良い夜でしたか?」
八戒の機嫌も良好である。
2002.8/5~10/3の間「へたれごじょ祭」という祭が開催されていました。
 コンセプトは、「5×8前提でへたれな悟浄さんの作品を集めて皆で愛でよう」というもの。
 悟浄さんを「へたれな男前」と信じて疑っていない私は、1も2もなく参加させて頂いて・・・。参加作品がこれでした。
 実は、その当時のコメントには「一部パクリ」と書いてあったのですが、「パクリ」ですが・・・。
 八戒さんの脅し文句@「芸能人社交ダンス部」のこと。モノホンは「浮気は許すけどホンキは許さない」(←重箱の隅つつきすぎ)
 この名言を発した杉○彩アニキにブラボー!!。