特別な日常・2
 ―――その人が生まれてこなかったら、僕達はその人に逢うこともないので、一緒に過ごした楽しい思い出も作れないから、生まれて来てくれて嬉しい。とお祝いする日なんですよ?―――





 以前、物知り顔をして自分で言った台詞が、いきなり頭の中に落ちてきて目が覚めた。時計を見ると、長いほうの針がいつも起きる時刻よりも、5分ほど早い場所を指している。普段だったら、起きてから1.2時間は靄がかかった状態な僕の頭の中は、今スッキリと霧が晴れてクリアな状態になっていた。

 僕はなんてバカなんだろう。

 悟浄がどうして欲しいかではなく、これは、僕の気持ちが大事なことなのに。
 あの人はずるいと思う。
 3週間前、僕の誕生日には、花喃のことまで聞き出して彼女との思い出を彼女への想いを共有して、一緒に祝ってくれたのに、僕には何もさせないつもりだなんて。
 そんなこと僕は許さない。
 悟浄と出逢えて嬉しかったのは、間違いようがない僕の本心なのだから。
「やっぱり、覚悟して貰いましょうか」
 壁に向かって呟きながら、今自分が笑みの表情を作っているのが分かった。

 多分悟浄は、今日一日僕から逃げるつもりだろう。
 だから、伝えるチャンスは彼が出掛ける寸前。

 この壁の向こう、まだ夢の中を彷徨っている筈の彼が数時間後、どんな反応を示してくれるか。僕は、悪戯を仕掛ける少年のようなドキドキした気分でベットから勢い良く抜け出した。
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