今日も、ジープに乗って旅が続く。いつもと変わらぬ面々、いつもと変わらぬ会話。
ちょっと前まで日中になると、太陽が真上で幌のないジープの上を照らし続けていたと思ったのに、今は、そんなカンカン照りの日も少なくなっている、季節が移っている証拠なのだ。
兄弟喧嘩ような言い合いをしていた悟空がふと、思い出したように相手をしていた悟浄に訊ねた。
「なあ、今日って何月何日?」
「何月って・・・。・・・オイ?いつだっけ?」
どうしようもないケンカをしていたと思ったのに、別な話題にすぐに切り替えられるのは、やはり、お互い本気のケンカじゃない所為だろう。それが分かっているから、三蔵も八戒もあえて止めはしない。悪ふざけが過ぎてエスカレートした時だけ、三蔵のハリセン、もしくはS&Wが取り出されるのだ。
「いやですねぇ、二人とも・・・。僕より先にボケないで下さいね。9月も中盤を過ぎましたよね」
運転席から八戒が失礼と言えば失礼な台詞をさらりと後ろの二人に返し、新聞を読むのが日課になっている三蔵にきちんとした日にちを確認するかのように、視線を送る。視線を感じた三蔵が、面白くなさそうに一言「18日だ」とだけ答えた。
「だ、そうですよ?」
「ふ〜ん・・・」
「ふ〜ん。ってオイ、なんか用があるから訊いたんじゃなかったのか?」
「別に?気になったから訊いただけだよ」
「へえぇぇぇ。小猿ちゃんが食い物以外に気になることあるんだ〜」
「何だよ?!悟浄だって答えらんなかったじゃないか!」
この2人の場合、ただ単に暇なだけなのだろう。またしても、どうでも良い口喧嘩が始まってしまった。そこから、三蔵の袂に入っているS&Wが抜き取られるまで、大した時間はかからなかった。
「うるせぇんだよ!!何も考えなくて良いように、脳みそ流れ出させてやろうか?!」
ホールドアップの体勢で固まっている悟浄のバンダナに銃口が突きつけられているのをバックミラーで伺いながら、八戒はのどかに呟いた。
「平和ですねぇ・・・」
もうじき夜の帳が降りて来ようかという時間になって、ようやく街が見えて来た。訪ねた宿屋では、幸い個室が4部屋確保でき、それぞれにのびのびと過ごせるという安堵の表情が浮かぶ。とりあえず、荷物を置いてから4人は、今後の予定を確認するため三蔵の部屋に集まった。
「さっき地図を確認したのですが・・・」
八戒が持参した地図を広げると、8つの視線が集まった。その地図の上に指先を走らせながら、八戒が教師のように3人に説明をしていく。
「今、僕達がいるのはこの街です。ここから西に向かって行くと、暫く町らしい町は見つからないようです」
「次の街までどのくらいかかんの?」
「はっきりとは言えませんが・・・。ジープの速度を考えると、早くても一週間はかかりそうですね」
「一週間?!・・・・・。そりゃあ、なげーな・・・」
「はい。この先の野宿に備えて、この街で食料とか調達しておかないといけないんです」
八戒が今まで何も言わずに話を聞いていた三蔵に視線を移す。
「そういうわけで、明日買出しに出掛けます。この街に泊まるようになりますけど良いですか?」
三蔵が短くなった煙草を灰皿に押し付け、新しい一本に火を点ける間、沈黙ができた。
「それは、俺に了解を取っているわけじゃねぇんだろ?」
報告だろうが。と、煙を吐き出しながら答える。
「じゃあ、出発は明後日の朝になりますね」
明日は、ゆっくりと休んでください。
八戒の言葉で、その日のミーティングは終了した。
それぞれの部屋へ戻る際、悟浄と悟空が何か言いたそうに目配せをしているのを、前を歩く八戒は気付かなかった。 |