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3years after・2(9/19)
明くる日、宿屋の洗濯場を借りた八戒は4人分の洗濯を済ませた後、昨晩の宣言どおり買出しに出掛ける為、三蔵の部屋を訪れた。
「三蔵、カードをお借りします。それから・・・おや?2人ともおそろいで」
ノックをしてドアを開けると、三蔵だけではなく悟浄の姿があった。テーブルの上には、灰皿とそれぞれの煙草のみ。客をもてなすということが頭の中からすっきりと抜けている、それ以前に悟浄を客とは思っていないであろう三蔵と、わざわざ訪ねて来たのに自分では絶対動きたくないであろう悟浄の2人では、当然の結果と言えば、当然の結果なのだが・・・。
それでも何か飲みますか?と問えば、タイミング良く「珈琲」とステレオで答えが返ってきたところを見ると、喉が乾いていないわけではないらしい。やや苦笑しながらも、八戒が慣れた手つきで備え付けのカップに珈琲を淹れて二人の前に置いた。
「なんか用事があったんじゃないのか?」
出された珈琲を一口含み、三蔵が本来の用件を促した。そう問われて、八戒が笑顔を三蔵に向ける。2人が見つめ合ったままの体勢で暫くの間が空いた。ようやく八戒が思い出したように「あぁ」と右の握りこぶしを左手の平に軽く当てて答えた。
「そうでした。買い物に行って来るのでカードを借りにきたんです。それから、何か欲しいものはありませんか?」
「ボケが始まっているのは八戒のほうじゃん」という悟浄のぼやきを耳にして、「今に始まったことじゃねぇだろ」と思いはしても、決して口には出さずにジーンズの尻ポケットへ手をやる。カードを取り出し八戒のほうに手渡しながら、「マルボロ赤、ソフト2カートン」とだけ告げた。
「はい、悟浄のほうは何かないですか?」
今度は碧の瞳が暴言を吐いた紅い髪の男に向く。普段と同じ穏やかな笑顔から判断して、先程の台詞は八戒の耳まで届かなかったようだ。ホッとして悟浄は、自分の要求を口にした。
「俺も煙草2カートン。それから、酒も忘れないでね~」
手をひらひらさせながら、すでにお見送りの体勢だ。碧の瞳が意外そうに見開かれる。
「付いて来てくれないんですか?」
「俺、今三蔵と大事な話してンの。隣の部屋に力自慢の小猿ちゃんがいるからよろしくねv」
「大事な話ですか・・・。じゃあ、仕方がないですね。悟空にお願いすることにします」
貴重な荷物持ちが1人減ってしまって、残念と言えば残念だが仕方がない。それでは。と部屋を出て行こうとする八戒を三蔵が呼び止めた。
「おい」
「はい?」
ノブを持った体勢のまま、八戒がくるりと後ろを振り向く。
呼び止めたは良いが、どう切り出して良いか考えあぐねているようだ。煙草を燻らせながら、目を眇め少々上の空中を睨みつけている。
「三蔵?」
痺れを切らした八戒が次の言葉を促す。まだ長いままの煙草を灰皿に押し付けながら、ようやく三蔵が口を開いた。
「それから・・・。お前が好きなもの、何でも良いから買って来い」
「僕の好きなもの・・・。ですか?」
思わずきょとんとしてしまった。
「あぁ。でなければお前が今欲しいものでも良い。値段は気にするな」
新しい煙草を取り出しながら、ぞんざいに答えた。一方、八戒は突然そんなことを言われても困ってしまったようだ。一瞬う~んと唸ってから、ふわりと笑顔を浮かべた。
「分かりました。有難うございます」
「・・・。いや」
素直な笑顔を向けられ、三蔵は幾分照れくさそうだ。話は終わったとばかりに煙草に火を点けようとしたが、次の台詞で三蔵の動きが止まってしまった。
「ジープもきっと喜びます」
「・・・・・。なに?」
火の点いていない煙草を咥えたまま、紫暗の瞳を眇めて八戒を見やる。相変わらずの優しい笑顔で、八戒が言葉を続ける。
「いつも走りづめのジープがちょっと可哀想だったんですよね~。なんか良い物を食べさせてあげたいとは思っても、僕のお金じゃないしと遠慮していたんです。三蔵から許可が貰えたのなら、遠慮はいりませんよね?」
ジープにちょっと良いものを買って来ましょう。
そう呟く八戒の笑顔は全く邪気がない。そんな笑顔を向けられては、三蔵も何も言えなくなってしまった。勝手にしろと吐き捨てイライラとライターを繰るのと、暫く事の成り行きを見守っていた悟浄が吹き出すのは同時だった。
大爆笑している悟浄を目の端に映しながら、今度こそ部屋を出ようとドアを開ける。部屋を出て行く寸前、まだ笑いが収まらない悟浄に声をかけた。
「あぁ、そうだ、悟浄」
笑いすぎて突っ伏してしまった頭をようやく上げて、ひーひー言いながら紅い目をドアに向ける。八戒が閉まりかけたドアから顔を覗かせてにっこりと笑いながら立っていた。
「僕、もうそろそろボケが始まってきているようなので、貴方に頼まれたものだけ忘れちゃうかもしれません」
じゃ、行って来ます。と言い残し、パタンとドアを閉める。
一遍に、笑いがひいてしまった。「オイ待てよ」という、悟浄の台詞は無情にも閉ざされたドアにぶつかって戻ってくる。三蔵がそれを見て、にやりと口の端を上げながら「馬鹿が」と呟いた。
「くそー、やっぱり聞こえてたのか・・・」
「あの地獄耳が聞き逃すわけねぇだろ?それに大事な話なんか、俺の方では覚えがないな」
「・・・・・。やっぱり、行って来るわ」
諦めて腰を浮かす。ドアを開け悟浄が部屋から出て行く寸前、先程の八戒のように振り向いて三蔵に呼びかけた。
「さんぞーサマv」
珈琲をすすりながら、視線だけドアに向ける。紫暗の瞳に悟浄の品の良くない笑顔が映った。
「ザンネンね、思惑が外れてv」
銃口がドアに向かれる前に、ドアは閉ざされてしまった。取り出した拳銃をいまいましげにテーブルに置く。面白くなさそうに煙草を吸い続ける三蔵の耳に、八戒と悟浄の声が聞こえて来た。
「あれ?大事な話は良いんですか?」
「いーのいーの、八戒の買出しのほうが大切だって!」
「無理しなくて良いんですよ?」
「いや、俺、すっごく体力余ってるし・・・。荷物持ちやりたいな~って・・・」
徐々に声が小さくなっていき、静寂が戻って来た。冷めかけた珈琲をすすり、ボソリと呟く。
「何も考えてねぇんだろうな、あの馬鹿は・・・」
ふと、窓の外に視線を向ける。
柔らかい日差しが降りそそいでいる。この暖かさが、彼によく似ていると思ったのは、先程の笑顔を思い出したからかも知れない。
<おまけ>
その夜、八戒の部屋にて。
「美味しいですか?ジープ」
「キューv」
「それは良かったです」
優しい笑顔を向ける八戒の視線の先には、皿いっぱいの蜜入りりんごをシャクシャクと頬張るジープの姿があった。
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2話目でした。
「三蔵の心八戒知らず(爆笑)」。
何故、うちの三蔵さまが出て来ると、ちょっとギャグになる傾向が高いのでしょう?意識してやっているわけじゃないんですが・・・。
(2002.9.19UP)