ダンデライオン
寂しがりライオン 吊り橋を渡る
サバンナじゃ 皆に 嫌われた
橋の向こうで出会ったヤツは
太陽によく似た姿だった
 最近、八戒にはお気に入りの曲がある。
 時々隣の部屋から聞こえてくる、アップテンポな曲。何事にもあまり執着しない彼だったが、この曲はオリジナルを購入してしまうほど、かなりのお気に入りらしい。今も、洗濯物を干しながら、その曲を口ずさんでいるのが聞こえてくる。
 その珍しい光景をリビングのソファにもたれながら、紅い瞳が見つめていた。控えめに聞こえてくる八戒の声を耳にしながら、ハイライトのパッケージを取り上げ一本口にくわえるとライターを擦る。
 八戒には悪いが、この曲が何故そんなに八戒のツボに入ったのかが、悟浄には分からない。この曲を聴くたび、表現のできないモヤモヤが心の中を支配する。点けたばかりの煙草をもみ消し、ソファの背もたれに背中を預けると、耳の代わりに目をきつく閉じてその上から両腕を交差させ覆った。



「悟浄、寝ちゃいました? 珈琲を淹れたんですが・・・」
 そのままの体勢で少し時間が経っていたらしい。ふと気がつくと、珈琲の芳しい香りが鼻腔をくすぐる。そろそろと腕をはずし目を瞬かせて声のした方へ視線を向ける。ぼんやりとした輪郭が映った後、マグカップを2つ持った青年が自分を見下ろしている姿に焦点が合う。
「ンや、起きてた。珈琲ちょうだい?」
いつの間にか、ソファに沈んでいた上体を起こし八戒のほうへ左手を差し出した。伸ばされた左手にカップの片方を手渡して、八戒が隣のソファに腰を下ろす。お互いに珈琲を啜る間、静寂ができた。
「八戒、あの曲お気に入り?」
淹れたての珈琲を一口味わった後、おもむろに悟浄が八戒に尋ねる。突然の問いに一体何のことだろう?ときょとんと、碧の瞳を軽く見開いて悟浄の不貞腐れたような顔を眺める。
「あの曲・・・って、さっき僕が歌っていたヤツですか?」
やだなあ、悟浄聴いていたんですか?あまり上手くないんですよ、僕。とのほほんと返される。しかし、悟浄が自分の鼻歌を意識して心にとめてくれたことは満更でもないらしい。照れたような笑顔を浮かべ、マグカップの琥珀色の液体に視線を落とす。
「買い物の途中、街中で何気なく聞こえた曲だったんですがね、思わず曲名を探しちゃいました。悟浄、この歌詞意識して聴いたことありますか?」
 そして、次の台詞で悟浄は納得してしまった。この曲が気に入らない理由が何だったか、を。
「あのライオン、悟浄に似ていますよね?」
お前は 俺が 怖くないのか?
逃げないでいてくれるのか?
吹きぬける風と共に
一度だけ頷いた
 ライターを擦る音がリビングに響く。
「そう?」
「はい」
 こう、毎日毎日聴かされれば嫌でも歌詞が頭に入ってくる。
 サバンナ中に嫌われていたライオン。歌の中では、一度も彼が乱暴ものだったという描写はない。おそらく、外見の恐ろしさだけで嫌われ者になってしまったのだろう。
 紅い髪と瞳を持つ禁忌の子供だというだけで、後ろ指を指され続け、母親にまで命を奪われかけた過去が思い出された。八戒の言うことは間違っていない。しかし、八戒の穏やかな笑顔を見ていると、イライラが募ってくるような気がして、煙草の灰を落とすべく、視線を灰皿に向けた。
「俺ってそんなにマヌケ?」
「え?」
「風に揺れただけの花を、肯定の印と勘違いするようなマヌケなヤツに見えるんだ?」
口調が、少しきつくなってしまっただろうか?視線は灰皿の上の濁った灰に注がれたままになっている。八戒の中で悟浄のイメージは、この勘違いライオンと一緒なのか・・・。先程のモヤモヤが少しずつ心の中を支配していく。八戒の少し困ったような呼びかけにも応える気すら起こらない。
「貴方、何か勘違いしていませんか?」
まあ、僕の歌じゃ勘違いされても仕方ないですがね・・・。と少し諦めたような声が響いた。

「確かに、勘違いから始まったライオンの一方的な親しみなんですよ。その証拠に、ものを言わないタンポポに毎日のようにお土産を持って訪ねて行きますし」
 イライラが更に募る。新しい煙草を取り出し火を点ける。
「でもある雨の日、タンポポのもとを訪れようとして、吊り橋を渡っている途中で橋が雷に打たれて落ちてしまうんです。ライオンも谷底にまっさかさま。そこで血を流しながら、薄れていく意識の中、ライオンは思うんです」
お前を泣かすものか
 必死に、声が尽きるまで吼え続ける、自分は大丈夫だと。タンポポに届くように。
「僕が貴方に似ていると思ったのは、自分のことより誰かのために、自分の唯一心を開いてくれた相手が哀しまないようにカッコをつけてしまうところです」
 いつの間にか、火を点けた煙草は吸われないまま殆どが灰になってしまっていた。
止まない雨に 血は流れてく
もし生まれ変わるなら
お前の様な 姿になれれば
愛して貰えるかなぁ
「僕のイメージ、ずれていましたか?」
間違ってはいないと思っていたのですが・・・。
 紅い瞳をゆるゆると動かし視線を八戒に移す。なんだろう、この自信満々の顔は。八戒の碧の瞳は真っ直ぐに、ゆるぎなく自分を見つめている。
 今まで気に入らなかった間抜けなライオンの気持ちが何となく分かった。自分を受け入れてくれたものは、何としても哀しませたくない気持ちが。
 肘をついた右手に俯かせた顔を乗せる。ククッという笑いが悟浄の口から零れ落ちた。
「とーだろ?お前がそー言うんなら、そーいうことにしておく?」
 俺がこのライオンのイメージなら、ライオンの頑なな心を溶かしてしまったタンポポのイメージはこの目の前の青年だろう。
 何気ない存在で自分を救ってくれるタンポポは、まさに八戒のようだと思った。
 「これはOKなのか?」とドキドキしています。
 元ネタはまんま「ダンデライオン@BUMP OF CHICKEN」。この曲大好きで大好きで。聴いた時、ごじょさんのイメージだなあと本気で思っていた私・・・。
 蒼い色がオリジナルの歌詞を抜粋させていただいた場所です。
 っつーか、桃源郷にBUMP・・・。すごいなあ、世界に進出だよ、BUMP(←・・・・・。)
 実はもう1ページ続きます。
(2002.12.7UP)
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 有島 希流(圭)さまが続きを書いてくれましたv
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